音痴を直したい大人へ|「音痴」の中身を4つに分けると、やることが変わる
「自分は音痴だから」。そう思って、歌うことを避けてきた大人は少なくありません。学生時代の音楽の授業で笑われた、カラオケで場の空気が変わった気がした、家族に指摘された。きっかけは何年も前のたった一度の出来事なのに、それ以来ずっと「歌は自分には向いていない」と決めてしまっている。そういう人は、本当に多いです。
それでも、この記事を開いたということは、歌いたい気持ちがどこかに残っているのだと思います。その気持ちまで、諦める必要はありません。
最初に伝えたいことはひとつです。「音痴」と呼ばれているものは、ひとつの状態ではありません。中身の違ういくつかの状態が、全部まとめて「音痴」という一言で呼ばれています。そして中身が違えば、やることも変わります。この記事では、その中身を分けるところから始めます。
まず、自分の歌をスマホで録音して、翌日に聞いてください。自分の声は骨伝導が混ざって実際と違って聞こえるため、録音を聞くまで、自分の歌を正確に知っている人はいません。「音痴だと思っていたけれど、想像と違った」となる人が実際に多くいます。自分を音痴と判定するのは、録音を聞いてからでも遅くありません。
「音痴」の中身は、少なくとも4つに分かれる
ひとくちに音痴と言っても、起きていることは人によって違います。大きく分けると、次の4つです。
| タイプ | 起きていること | 見分けるヒント |
|---|---|---|
| 1. 音が取れていない | 出すべき高さそのものが分かっていない | ゆっくりの曲でも、手本と自分の音の高い低いの区別が難しい |
| 2. 音は分かるが、声がついてこない | 正しい高さは分かるのに、その高さの声が出ない | 外れた瞬間に「今の外れた」と自分で分かる |
| 3. 自分の声が聞こえていない | 伴奏や環境に声が埋もれて、合わせる手がかりがない | 静かな場所や小さい伴奏なら、ましになる |
| 4. 人前でだけ外れる | 緊張で息が浅くなり、普段どおりの声が出ない | ひとりなら歌える |
表の3行目に注目してください。「静かな場所ならましになる」に心当たりがあるなら、あなたの問題は歌う力ではなく、聞こえ方の側にあります。このタイプが実はいちばん多く、次のセクションで詳しく扱います。
自分がどれに当たるか、この時点で分からなくても構いません。あとで一人で確かめる方法を説明します。また、複数のタイプが重なっている人もいますが、その場合も一度に全部を相手にする必要はなく、ひとつずつ切り分けていけば足ります。ここで大事なのは、どのタイプかによって、やるべきことが全く変わるということです。
音の高低を聞き分ける練習が必要なのは、1のタイプだけです。2は発声の問題、3は聞こえ方と環境の問題、4にいたっては歌の技術の問題ですらありません。中身が違うものを全部「音痴」とまとめて、「歌がうまくなる方法」を一括で探すから、自分に関係のない練習に時間を使ってしまい、変わらない、やっぱり自分は音痴だ、という循環に入ります。分ければ、この循環から出られます。
いちばん多いのは、「聞こえていない」だけの人
4つの中で、実際に多いのは3のタイプです。そしてこれは、歌の能力の問題ではありません。
歌っている本人には、空気を伝わる音に、頭の骨を通って直接届く音が混ざって聞こえています。他人が聞いているあなたの声と、あなたに聞こえているあなたの声は、物理的に別の音です。つまり、録音を聞いたことがない人は、他人が聞いている自分の歌を、一度も聞いたことがありません。
「自分は音痴だ」という判定も、この違って聞こえる声に基づいているか、あるいは何年も前の誰かの一言に基づいています。どちらも、いまのあなたの歌の記録ではありません。だから最初の一歩は、練習ではなく確認です。スマホで1曲録音して、翌日に聞いてください。思っていたほど外れていなかった、という人がかなりいます。逆に、外れている場所がはっきり特定できたなら、それも収穫です。直す対象が「音痴という体質」から「この部分のこの音」に変わったからです。体質は直せませんが、特定の場所なら手が打てます。
ひとつだけ、混同しやすい点を分けておきます。録音した自分の声を聞いて「気持ち悪い」と感じるのは、音痴かどうかとは関係のない、ほぼ全員に起きる反応です。ふだん聞いている自分の声と録音の声が違うことへの違和感であって、歌の出来の評価ではありません。「声が嫌い」と「外れている」は、別の話です。声質への違和感を理由に録音を聞くのをやめてしまうと、確認の手段そのものを失うので、ここは切り離して聞いてください。
歌っている最中の聞こえ方も同じです。伴奏を大きくしすぎると、自分の声が埋もれて、高さを合わせるための手がかりがなくなります。伴奏を下げて、自分の声が聞こえる状態にするだけで変わる人もいます。録音を軸にした練習の組み立て方は、大人になってから歌が上手くなりたいに詳しくまとめているので、確認が済んだらそちらに進んでください。
大人からでも変わる部分と、変わりにくい部分
ここは正直に書きます。すべてが同じように変わるわけではありません。
比較的変わりやすいのは、次のような部分です。
- キーと曲の選び方/今日から変えられて、効果もいちばん大きい部分です。出ない高さを無理に歌えば、誰でも外れます。
- 自分の歌を把握する力/録音を聞き続けるだけで上がっていきます。どこが外れるか分かること自体が力です。
- 息と声の安定/ゆっくりですが、回数に応じて変わります。語尾が消えにくくなると、外れた印象も減ります。
- 人前での緊張/場数の問題です。技術の練習では解決しません。
一方で、時間がかかる、または個人差が大きい部分もあります。
- 出せる音の範囲を広げること/広がっていく人は多いものの、時間がかかり、どこまで広がるかは人によります。
- 聞いた音をすぐに取る速さ/ゆっくりなら取れるようになっても、速い曲や跳躍の大きい曲では残りやすい部分です。
「必ず直る」とは書きません。どこまで変わるかは人によって違うからです。ただ、変わりにくい部分が残ったとしても、それで歌えなくなるわけではありません。変わりにくい部分は、キーと曲の選び方でよけられます。いま出る範囲で歌える曲は必ずあり、何をどの高さで歌うかを決める自由は、いつでもこちら側にあります。
音の高低の区別が極端に難しいと感じる場合や、声のかすれ・出しにくさ・聞こえの変化が続いている場合は、練習で解決しようとせず、耳鼻咽喉科など医療機関で一度相談してください。原因が聴覚や発声の器官にあるかどうかは、記事やアプリで判断できる範囲の外です。
一人で確かめる方法——誰にも聞かれずにできる
自分がどのタイプに近いのかは、家で一人で確かめられます。手順はこうです。
- 録音するスマホのボイスメモで十分です。よく知っている曲の、出だしの部分だけを録ります。
- 翌日に聞いて、外れているかを確認する録った直後は声質の違和感が先に立つので、一晩置いてから聞きます。外れていなければ、悩みの大半はここで終わりです。
- 同じ1フレーズだけを繰り返す曲を最後まで歌わないでください。10秒ほどのひとつのフレーズを、録っては聞き、録っては聞きします。範囲を絞るほど、変化が自分で分かります。
- 低い音から確かめる高い音は誰にとっても難易度が高い場所です。楽に出る低めの高さから確かめると、「出せる範囲の音なら取れている」ことに気づけます。
- 伴奏を小さくする自分の声がはっきり聞こえる音量まで伴奏を下げます。これで急に合い始めるなら、タイプ3です。
ポイントは、1曲を通して歌って判断しないことです。曲まるごとの出来で見ると、いちばん苦手な1ヶ所が全体の印象を支配して、「全部だめだった」に化けます。フレーズ単位で見れば、歌えている部分が必ず見つかります。そこが土台になります。歌えている場所を確認してから、外れる場所をひとつずつ狭めていく。この順番なら、一人でも進められます。
人前でだけ外れるなら、それは音痴ではない
家では歌えるのに、カラオケになると外れる。この場合、足りないのは技術ではありません。家で歌えているなら、あなたは音痴ではありません。状況が歌いにくいだけです。
緊張すると息が浅くなり、声を支えられなくなります。声が細くなれば高さも不安定になります。特に最初の1曲は、喉も温まっておらず、いちばん外れやすい条件がそろっています。さらに人前では、他人に合わせて歌い慣れない曲を入れたり、原曲の高いキーのまま歌ったりしがちです。つまり、家での条件と人前での条件が違いすぎるのです。これは場数と条件の調整で変わっていく種類の問題で、音を取る練習をいくら積んでも解決しません。
条件の調整には、具体的な形があります。最初の1曲は、歌い慣れた低めの曲にする。誘われた曲でも、キーを自分に合わせて下げる。喉が温まる前に勝負曲を入れない。どれも技術の練習ではなく、その場でできる段取りです。そして場数は、うまく歌えた経験でなくても積み上がります。「人前で声を出したが、何も起きなかった」という経験の回数が、緊張の元を少しずつ削っていきます。
聴き手の前で歌う場としては、配信という選択肢もあります。カラオケと違って、曲もキーも順番もすべて自分で決められて、喉が温まってから歌い始めることもできます。そして配信で歌うなら、上手さより先に整えるものが3つあります。
- 音量のバランス/伴奏より自分の声がはっきり聞こえること。聴き手の印象は、上手さより先に「聞き取れるかどうか」で決まります。
- キー/楽に出る高さまで下げます。配信の聴き手は、原曲と同じキーかどうかを気にしていません。
- 選ぶ曲の高さ/サビで張り上げずに歌いきれる高さの曲を選びます。曲選びの時点で、外れる条件の大半は消せます。
3つとも技術ではなく、設定と選択です。歌に向いた配信アプリの選び方は歌が歌える配信アプリに、代表的なアプリの比較はカラーシングとポコチャの違いにまとめています。顔を出さず声だけで配信する場合に知っておきたいことは声バレ対策を見てください。マイクなどの道具は後回しで構いませんが、音をもう一段整えたくなったらマイクの選び方が参考になります。
よくある質問
大人になってからでは、もう手遅れですか?
手遅れと言い切る根拠はありません。この記事で分けた4つのうち、キーの選び方・聞こえ方・人前の緊張は、年齢に関係なく今日から手を付けられる部分です。変わりやすい部分から順に手を付ければ、年齢を理由に止まる必要はありません。同世代の始め方は40代からのライブ配信や50代から始める配信も参考になります。
音痴は生まれつきや遺伝で決まっているのでは?
この記事では、その断定はしません。医学の領域だからです。ただ、「音痴」と呼ばれている状態の多くが、キーの不一致や聞こえ方、緊張といった、生まれつきとは別の理由で説明がつくのも事実です。まず録音で自分の状態を確かめてください。聴覚そのものに不安がある場合は、医療機関で相談してください。
昔、家族や友人に「音痴だね」と言われたのが忘れられません。
その一言が、いまでも判定の基準になっていないでしょうか。何年も前の、たった一度の場面の記憶は、いまのあなたの歌の記録ではありません。いまの記録は、いま録音すれば作れます。それを聞いてから決めても遅くありませんし、聞いた結果どうであれ、歌ってはいけない理由にはなりません。
カラオケの採点が低いのは、音痴ということですか?
そうとは限りません。採点は音程の目安にはなりますが、キーが合っていない曲や苦手な高さの曲で測れば、誰でも点は下がります。点数で自分を判定する前に、楽に歌える高さの曲で測り直してください。それでも気になる場所があれば、そこが練習する場所です。
- 「音痴」はひとつの状態ではない。中身を分けると、やることが変わる
- いちばん多いのは「自分の歌を聞いたことがない」だけの状態。最初の一歩は練習ではなく録音での確認
- キー選び・把握する力・慣れは変わりやすい。音域の拡大などは時間と個人差があると正直に区別する
- 確かめるときは、フレーズ単位・低い音から・伴奏を小さく
- 家で歌えて人前で外れるなら、それは音痴ではなく状況の問題
- 聴覚や声に不安が続くときは、練習ではなく医療機関へ
自分の状態が確かめられたら、次は練習の組み立てです。録音を軸にした上達の進め方は大人になってから歌が上手くなりたいに、上手さを目的にせず歌を続ける考え方は大人の趣味に「歌」を選ぶにまとめています。
始める前につまずきやすいのは、アプリ選びと事務所選びの2つです。どちらも、決めてから気づくと戻るのが大変なところです。
事務所選びを読む始めてから出てくる疑問を、記事にする前に聞くこともあります。
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